さよならの魔法
分かってる。
分かってるんだ。
これから2次会があるということも、それに行くべきだということも。
でも。
だけど。
俺はーーー………
「俺、天宮に用があるんだ。………話がある。」
あの頃、言えなかったこと。
本当は、6年前のあの日に伝えなければならなかったこと。
「だから、行く。俺は、行かなきゃ………ならないんだ。」
もう隠れない。
逃げたりしない。
弱かったあの頃みたいに、口をつぐんだりしない。
俺が天宮の名前を口にした途端、店の中がより騒がしくなった。
「どうして………、どうして、あの子なの?」
顔を歪めた茜が、悲痛な声で叫ぶ。
周りの酔っ払った元クラスメイト達からすれば、いいイベントみたいなものなのだろう。
所詮は、他人事なのだ。
修羅場だと察知すれば、冷やかしの声ばかりが飛ぶ。
「おー、紺野が増渕を泣かせたー!」
「天宮のこと、追いかけるってよ!!増渕がいるのに、よくやるよなー。」
泣かせたくて、泣かせてるんじゃない。
泣いている茜を置いていくのは、俺だって心苦しい。
今は、何の関係もない間柄だったとしても。
泣いている茜を置いていってでも、貫きたい意思がある。
伝えたい言葉がある。
俺の言葉を届けたい人がいる。
「………。」
ごめん。
ごめんな、茜。
俺は無言で、店を飛び出した。
「はあ………っ、は…………くっ…………!」
全力で走る。
息の続く限り、思いきり酸素を吸い込んで走る。
先ほどまでの暖かい店内とは違って、店の外は別世界の様だった。
冷えた空気が、ダウンジャケットの外側から俺の体を刺す。
突き刺す様に吹く風は、高い山から吹き下ろす、この町の冬独特のもの。
容赦のない自然。
俺の育った町。
それでも、俺の足は止まらない。
走ることを止められない。