さよならの魔法
(天宮、どこだ………?)
どこにいるんだ?
10分前まで、同じ店の中にいたのに。
同じ空間の中にいたはずなのに。
電車に乗って帰ってしまった、ということはないだろう。
今の天宮がどこに住んでいるのかは知らないけれど、電車に乗ってはいないことだけは分かる。
今日の最終電車は、もう2時間も前に行ってしまったから。
この町は山あいにある、本当に小さい町だ。
小さくて目立たない、田舎町。
都会みたいに、夜遅くまで電車が動いているということはない。
電車には乗れない。
アルコールも入っているから、自分で車を運転して帰ったということも有り得ない。
まだ、この町にいるはず。
この町のどこかにいるはずなんだ。
「くそ………っ、どこだ!?」
もっと早く、気が付けば良かった。
もっと早く、追いかければ良かった。
焦りばかりが先行して、思い通りにならない現実。
見つからない、あの子の背中。
探しても探しても、天宮のことを見つけられない。
天宮の背中に追い付けない。
天宮。
天宮。
どこだよ。
どこにいるんだ。
浮かぶのは、2つの影。
中学時代の彼女と、さっきまで見ていた大人びた女の子。
2つの影が重なる。
重なり合って、頭の中で混ざっていく。
紺色のセーラー服を着て、長かった黒い髪を2つにギュッと結んでいた天宮。
ああ、懐かしい。
もう5年も経つのに、俺はまだちゃんと覚えてる。
短いスカートから伸びた足。
サラサラの、ほんのり茶色がかった髪。
別人みたいに変身した、20歳になった天宮。
俺は、どっちの天宮を探しているのだろう。
どっちの天宮を追いかけているのだろう。
錯覚してしまいそうだ。
自分でも分からなくなる。
どっちも、同じ人物なのに。
もう遅いのか。
間に合わないのか。
俺には、こんな俺には、天宮を見つけることなんて出来ないのだろうか。