さよならの魔法
しかし、目の前にいるのは、色気を感じるほどに大人に成長した女の子。
いや、1人の立派な女性。
5年ぶりに見た天宮は、別人の様だった。
受ける印象が違う。
イメージが、あの頃とは違う。
田舎に住んでいる、純粋そうな素朴さが残る女の子なんかじゃない。
洗練された、都会的な若い女の子に見えるのだ。
俺の脳は、あの頃の影を追い求める。
外見が変わってしまった天宮の中に、5年前の影を求めている。
じっと見つめて、気付いた。
あの頃みたいに紺色のセーラー服は着ていないけれど、この子は天宮だ。
長い制服のスカートを穿いてはいないけれど、目の前にいるのはあの天宮だ。
大人びて見えるメイクをしていても、よくよく見れば、顔立ちはあの頃のまま。
あの、天宮のままなんだ。
教室の端で、静かに本を読んでいた女の子。
いじめられていても、じっと耐え忍んでいた子。
卒業式の日に泣いていたあの天宮と、目の前にいる天宮の目は同じだ。
澄んでいて、濁りがない目。
水晶の様に透明で、透き通った目。
メイクで雰囲気が変わっているだけで、天宮自身が変わってしまった訳じゃない。
天宮だ。
ああ、この子は天宮だ。
俺がずっと会いたかった、あの天宮なんだ。
俺は、ずっと会いたかった。
この子に会いたかったんだ。
きっと、中学を卒業してから、ずっと。
しばらくの沈黙を挟んで、無言だった天宮がようやく口を開いた。
「だ、大丈夫………だよ。確かに、ちょっと酔ってるけど。」
どうやら、そこまでアルコールに弱いタイプではないらしい。
意外といえば意外だけれど、そのギャップさえも新鮮だ。
恥ずかしそうに、そう答える天宮。
重なる。
5年前と今が、俺の中で重なる。
同じ教室の中で聞こえていた穏やかな声と、目の前の女の子の声が。