さよならの魔法
紺色のセーラー服を着たあの子の声と、すぐ傍にいる大人っぽい彼女の声がぴったりと重なり合っていく。
落ち着いた声音。
静かな夜の空気に、天宮の落ち着いた声音が溶け込む。
「そっか。」
とりあえず良かった。
ホッとして、胸を撫で下ろす。
あれだけ、松島に飲まされていたんだ。
本当に体調を崩していたらどうしようかと、ちょっと心配していたから。
具合が悪くて店を出たのではないなら、それでいい。
俺よりも背の低い天宮を見下ろして、そっと息を吐く。
緊張を逃す様に。
俺が天宮を追いかけたのには、理由がある。
きちんとした理由があって、ここまで来たんだ。
体調が悪いのかが心配だったのも嘘ではないけれど、何よりも、俺は天宮と話がしたいからその背中を追った。
このまま、会えなくなるのなんて嫌だった。
何も言えないまま、終わるのだけは耐えられなかった。
次に会える保障など、どこにもないから。
「天宮、少しだけ………、少しだけ俺に時間をくれない?」
その言葉を言うのには、勇気が要った。
デートに誘っている訳でもない。
ただ話がしたいから呼び止めているだけなのに、やたらと緊張したのだ。
(あーーー、俺、今が1番緊張してる………かもしれない。)
今日は、俺にとっては大事な日だった。
人生の節目となる、そんな1日だった。
だけど、1日の中で、今が1番ドキドキしている。
成人式の時よりも、同窓会でみんなに久しぶりに会えた時よりも、今、この瞬間の方がずっと緊張してるんだ。
変だ。
おかしいな。
自分でも笑ってしまうくらい。
祈る様に見つめる視線は、彼女に届いたのだろうか。
俺の言葉は、彼女の心に響いたのだろうか。
天宮の答えは、ただ一言。
「………うん。」
俺が、密かにガッツポーズをした瞬間だった。