さよならの魔法
(あ、ここ…………知ってる。)
私、知ってる。
この場所のこと、知ってる。
あれは、確か、小学校に上がる前の記憶。
両親の仲がいいと、まだ思い込んでいた頃。
忘れてしまいそうなほど、遠い昔のことだ。
ランドセルさえ背負っていなかった頃の、遠い遠い過去の記憶。
「お父さーん、早く早くー!」
「ちょっと待ってくれ、ハル!!」
走る幼い私を、慌てて追いかけるお父さん。
「ハル、走っちゃダメよ。転んじゃうわよ!」
「うん、分かったー。」
幼い私を、温かく見つめるお母さん。
セピア色に染まった記憶が、この公園のいろんな場所に埋まっている。
どうして、忘れてしまっていたのだろう。
大切な記憶まで、この町に置いてきてしまったのだろう。
お父さんと一緒に登った、ジャングルジム。
お母さんに背中を押してもらった、ブランコ。
両親に見守られながら滑った、子供用の小さな滑り台。
3人で一緒に遊んだ、シーソー。
今では有り得ない光景は、とても大切な幼き頃の記憶。
「………。」
深夜の公園には、子供の影すらなかった。
人の気配すらなく、静まり返る児童公園。
静けさに満ちたこの空間は、1人だったら不気味に感じていたことだろう。
だけど、1人じゃない。
あの頃みたいに両親は隣にいてくれないけれど、私にとっては同じくらい大切な人が、今の私の隣に立っていてくれる。
今日だけだけれど、紺野くんが隣にいてくれる。
信じられないけれど、あの紺野くんが私の隣に立っていてくれるのだ。
怖いだなんて、思わない。
不気味だなんて、感じない。
だって、紺野くんが笑うから。
笑って、私の隣にいてくれるから。
ここは、怖い場所なんかじゃない。
むしろ、私にとっては天国の様な場所だ。
紺野くんが隣で笑ってくれるのなら、どこでもそこは天国になる。
優しく温かな、幸せな場所となる。
それが、錯覚なのだと分かっていても。