さよならの魔法



「うわー、この公園に来るの、すっげえ久しぶりだー!」


子供みたいにはしゃいで、紺野くんが駆け出していく。

紺野くんの体が、あっという間に闇に消える。


ジャングルジムに登って、薄闇の中から手を振ってくれる紺野くん。

身軽な紺野くんの動きを、私はジャングルジムの下から見上げていた。






初めてかもしれない。

紺野くんと、2人きりになったのは。


思えば、紺野くんの隣にはいつも誰かがいた。

私が、彼の傍に近付こうとすることもなかった。



あの頃の私と紺野くんには、同じクラスだったということ以外に接点なんてなかったのだ。

2人きりになる機会なんて、可能性はあっても起こり得ないことだった。


紺野くんと、2人きりの空間。


他には、誰もいない。

誰もいない公園には、私と紺野くんの2人だけしか存在しない。



紺野くんが、私を追いかけてきた理由。

みんなの輪の中にいたのに、そこを抜けてまでここにいる理由。


見当もつかない。



暇だったから、だろうか。

ただの思い付きでの行動だろうか。


そこに、深い意味なんてないのかもしれない。

深い意味なんて、あってはいけないのかもしれない。



それでも良かった。

理由なんて、どうでもいいことだった。


理由なんて、何でもいい。



私、嬉しかったんだ。

嬉しかったんだよ。


紺野くんが、こうして私を追いかけてきてくれたこと。

追いかけてきてくれて、声をかけてくれたこと。



紺野くんの行動が、紺野くんの言葉が嬉しかったんだ。




好きだから。

好きだったから。


今でも、大好きな人だから。

忘れられない人だから。



(何か、デート………みたい。)


バカなことを考えて、ふと笑う。


デートなんて、有り得ないじゃないか。

紺野くんがそんなこと、考えているはずがない。



紺野くんには、増渕さんがいる。

中学時代から大切にしてきた、可愛い彼女がいる。



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