さよならの魔法



可愛い彼女がいるのに、私とのデートなんてしたいと思う訳がない。


それなのに、心が弾む。

恋を知ったばかりの子供みたいに、浮かれてしまう。


どうしてだろう。



2人きりの空間。

2人きりの公園。


紺野くんにはそんなつもりはないと分かっていても、私にとっては立派なデート。

今までの人生の中で、1番素敵なデートだ。





「天宮は、ここに来たことある?」

「うん、あるよ。すごく小さい頃に、だけど………。」

「俺も、俺も!俺の場合は小さい頃にだけじゃなくて、高校卒業するまで来てた。」

「ほんとに?」

「ああ、学校帰りとか、しょっちゅう寄り道してたから。」



こんな風に会話をしていると、勘違いしてしまいそうだ。

昔からの、仲のいい友達だと。


軽い口調で親しげに接してくれるから、私の口からも自然と言葉が紡がれていく。



不思議な人だ。

紺野くんという人は。


誰とでも打ち解けられる、そんな力を持っている。



昔から、彼はそういう人だった。


いじめられていた私にさえ、普通に接してくれていた。

他のクラスメイトみたいに、露骨に私のことを避けたりしなかった。




誰であろうと、分け隔てなく接してくれる。

人によって、態度を変えたりなんかしない。


5年前と同じ。

私が好きだった、あの頃と変わらないまま。



紺野くんは楽しそうだった。


ジャングルジムに登ったり、シーソーに乗ったりして。

アルコールが入っているせいかもしれないけど、小さな子供みたいに無邪気に遊んでいた。



そんな紺野くんと、他愛のない話をたくさんした。










「天宮って、今、何してんの?」

「あ、えっと………だ、大学に通ってる。美術系の大学なんだけど。」

「へー、そうなんだ!」

「うん、楽しいよ………とっても。」

「そっか、そっかー。天宮って、昔から絵が上手かったもんな。」

「う、上手くなんてないよ!全然上手じゃ………私なんか、まだまだなのに。」



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