さよならの魔法
お互いの近況を話しているうちに聞かされたのは、意外なこと。
紺野くんが、私をどう見ていたのか。
知らなかったことばかりだった。
紺野くんが、私のことをそんな風に思っていたなんて。
私の絵を、ちゃんと見ていてくれたなんて。
(紺野くん、私の絵………見ていてくれたんだね。)
昔から、絵を描くことは好きだった。
本を読むことと同じくらい、絵を描くことが好きだった。
1番好きな授業は何かと聞かれれば、あの頃も今も、私はこう答えるだろう。
美術の授業と。
絵を描くことが出来る美術の授業が、1番好きだと。
絵を描くことは何よりも楽しいし、やり甲斐も感じられるのだ。
よくよく考えれば、私と紺野くんはずっと同じクラスだった。
同じ教室で、美術の授業を受けていたんだ。
私の絵を見ていてもおかしくはないと分かっていても、驚かずにはいられない。
同じ授業を受けていたけれど、まさか、私なんかの絵を覚えていてくれたなんて。
私の絵を見て、そんな風に感じていてくれたなんて。
頑張っていて良かった。
バケツの水をわざと溢されても、いじめに負けずに絵を描いた。
今になって、報われたのかもしれない。
あの頃の努力が、報われたのかもしれない。
あの頃の自分が、微笑んでいる様な気がする。
笑って、今の私を見てる様な気がする。
悲しいことばかりの記憶が、色を取り戻していく。
柔らかな色に染まっていく。
「俺も、大学行ってるけど………普通の大学だよ。しかも、成績なんて真ん中へんだし!」
「紺野くんは、どこの大学に通ってるの?」
そう聞いて、教えてくれたのは聞き覚えのある大学の名前。
生まれ育ったこの町から、少し離れた場所にある大学だ。
同じ県内にあるはずだけど、ここから通うには
相当な距離があったはず。
私が覚えている限りでは、だけれど。
当たり前のことだけど、私が通う美大とは遠い街にある大学だった。