さよならの魔法
遠く離れた街に住む私と紺野くんが、偶然でも顔を合わせることが出来る可能性なんてない。
0なんだ。
こんな機会がなかったなら、2度と会うことすら叶わなかっただろう。
すれ違うことのない距離。
その距離の遠さを、改めて感じる。
おかしいよね。
この小さな町を離れることを決めたのは、私なのに。
自分自身で決断して、納得をしたからこそ出ていったのに。
自分勝手な考えだ。
もっと、近くにいたいだなんて。
偶然でもいいから、会える距離に住んでいたかっただなんて。
最後に遊んだのは、ブランコ。
2つ並んで置かれたブランコに、私達は乗った。
ブランコに乗りながら、紺野くんはこう言ってくれた。
「天宮、あのさ………」
言いにくそうに、紺野くんが言葉を濁す。
紺野くんの体が、空中で飛ぶ。
勢いよく漕いだブランコが、視界の端で大きく揺れる。
紺野くんが、何を伝えようとしているのか。
紺野くんが、どうして私を追ってきたのか。
その答えが、今、出ようとしている。
それだけははっきりと分かっていたから、私は紺野くんの言葉を黙って待つ。
ドクンと、静けさの中で跳ねる鼓動。
嫌でも高まる、緊張感。
ほんの少しの沈黙を挟んで、紺野くんはこう続けた。
「………チョコレート、ありがとう。」
その言葉で、すぐに思い出した。
思い出してしまった。
あの日のこと。
あの冬の日のこと。
紺野くんの言葉が呼び起こす、冬の記憶。
中学2年生だった私達の、バレンタインデーの記憶。
「い、や………、やめて………。」
思い出したくない記憶だった。
忘れてしまいたい記憶だった。
取り上げられたチョコレート。
初めて作ったチョコレート。
生まれて初めて、誰かの為にチョコレートを作った。
他の人のことを想って、チョコレートを作った。
小さな水色の箱に、想いの全てを詰め込んだ。