さよならの魔法



叶わないことを知っていながら。

届くことはないと、分かっていながら。


それでも、私は渡したかった。

届けたかった。



終わらせたかった。


この恋を。

どうにもならなくて、苦しいだけだった恋を。



「返して!」


返してよ。

お願いだから、返してよ。


あんなことがなかったら、もっと静かにこの恋は終わるはずだったの。

悲しい結末であることは、変わりないけれど。



「紺野くーん、聞いて聞いて!」


止めて。

止めて。



「天宮さんはー、紺野くんのことが好きなんだって!」


温めてきた気持ちは、他人の口から明かされてしまった。


言えなかった。

伝えられなかった。


自分の手で終わらせることが出来ずに、ここまで来てしまったのだ。

6年後の、今日まで。



「………!」


嫌だ。

嫌。


思い出したくない。

忘れたい。


封じ込めていたかった記憶が蘇る。

再び、私の中に戻ってくる。



あのチョコレートは、どこに行ってしまったのだろう。

私が作ったチョコレートは、捨てられてしまったのだろうか。


気になっていたけれど、誰にも聞けなかった。

私が作った、チョコレートの行方。



あのチョコレートが、本人の手元にきちんと届いていたなんて。


私が、チョコレートを渡したかった人。

紺野くん本人の手に渡っていたなんて、思いもしなかった。



捨てられてしまったのだろうと、勝手にそう思っていた。

磯崎さんの手によって、どこかへ捨てられたのだろうと。


捨てられたものだとばかり思っていたチョコレートは、ちゃんと届けたかった人の手に渡っていた。

6年後の今日、そのことを初めて知った。




紺野くんは知っていた。

知っていたんだ。


私の気持ちを。

私の片想いを。


あの頃の私の気持ちは、想いは、紺野くんに届いていた。



「美味しかったよ、すっごく!」



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