さよならの魔法
「お前の考えそうなことなんて、お見通しなんだよ。」
「ちっ………。」
バレていないとでも思っていたのか。
それこそ、バカだ。
もう1年、友達をやってるんだ。
今年は別のクラスだけど、去年はほんとに四六時中、ヤツと一緒にいたのだから。
矢田の考えだって、分かる。
矢田の気持ちだって、分かる。
矢田のことなら、大体は理解しているつもりだ。
矢田は舌打ちをしつつ、教室の中を見渡す。
ほんとに分かりやすい男だ。
増渕のことを探しているんだ。
矢田のお目当ての相手。
愛しの増渕は、意外と俺のすぐ傍にいて。
どうしてか、俺に話しかけてきた。
「あ、紺野くん!」
肩に付くか、付かないか。
ボブの長さの髪が、動く度にサラリと揺れる。
制服のスカートを揺らせ、俺に近付いてくる増渕。
隣の矢田の顔が、見なくても分かってしまうのが嫌だ。
(どうせ、薄気味悪い顔して、ニヤニヤ笑ってんだろうな………。)
そう。
去年の春、初めて増渕という存在を教えてもらった時の様な顔をしているに違いない。
ニヤニヤして。
鼻の下を伸ばして。
ああ、癪に触る。
ちょいと横に目をやれば、予想通りのにやけ顔。
隣の矢田の脇腹を小突いてから、増渕に向き直った。
確かに、矢田が惚れ込むのも頷ける。
奥二重の目元は、爽やかな印象を与えてくれる。
決して大きい訳ではないけれど、どこか可愛らしさを感じさせてくれる瞳。
小動物みたいな、そんな感じ。
清潔感を漂わせる、フワッとシャンプーの香りがする髪。
それに、明るい笑顔。
そこに花が咲いた様な、華やかな笑顔だ。
笑顔で俺の名前を呼ぶ増渕に、俺も笑ってこう告げた。