さよならの魔法



だけど、その微笑みが柔らかくて。

あまりにも、その眼差しが優しくて。


体は寒いはずなのに、心だけはポカポカと温かくなった。

その笑顔に、その眼差しに、俺の心は癒されていった。










真夜中の公園。

そこは、俺の記憶にあるこの場所を塗り替えるのには十分過ぎるほど、昼間とは違う場所に見えた。


わずかな街灯と、月明かりだけに照らされた空間。

薄明かりの下にぼんやりと、天宮の姿が映し出されている。



幻想的に見えた。


この空間が。

この光景が。



一緒にいるのが、友達ではないせいだろうか。

初めて、連れ立って来た人だからだろうか。


夜の空気と相まって、俺の知っているこの小さな公園が色を変えていく。

その雰囲気を変えていく。


まるで、別の場所みたいだ。

知らない所みたいだ。



そう。


今だけしか現れない、特別な空間。

今しかいられない、特別な場所。


そんな風に思えてしまった。




幼い頃から何度も訪れた、よく知る場所で天宮と2人きり。

初めてのシチュエーション。


多分、今までの俺と天宮の薄い交わりの歴史の中で、1番多くの言葉を交わしているのが今なんだと思う。




「天宮は、ここに来たことある?」

「うん、あるよ。すごく小さい頃に、だけど………。」

「俺も、俺も!俺の場合は小さい頃にだけじゃなくて、高校卒業するまで来てた。」

「ほんとに?」

「ああ、学校帰りとか、しょっちゅう寄り道してたから。」



俺と天宮の繋がりは、あまりにも薄い。


中学時代の3年間、同じクラスだった。

それ以外に、俺と天宮を繋ぐものはなかった。


そんな天宮と俺の、数少ない共通点でもあったのだ。

この小さな公園は。



まさか、天宮もここを訪れたことがあったなんて。

天宮も、小さい頃にこの公園で遊んでいたなんて。


何という偶然なのだろう。



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