さよならの魔法



同じ町に住んでいたのだ。

そういう可能性があるのは、もちろん分かっている。


しかし、俺と天宮は小学校も別々の学校だったし、実家だって近所と呼べるほど近くはなかった。



そんな俺達2人が、同じ場所を訪れていたのだ。

同じ学校に入るよりも前に、ちょっとした接点があったのだ。


驚くのも、無理はない。



もしかしたら、中学で同じクラスになるよりも前に、俺と天宮は出会っていたのかな。

ここで、未来のことなんて何も知らない2人がすれ違っていたのかな。


偶然って、ほんとに面白い。



公園ですれ違っただけの女の子と、何年後かに同じ学校になるなんて。

同じ学校の、同じクラスになるなんて。


どのくらいの確率なのだろう。

奇跡が起こる、その確率というものは。


もしかしたら。

その仮定のことを考えただけなのに、心が弾む。

胸が躍る。





「天宮って、今、何してんの?」


そう聞いたのは、単純に今の天宮の生活に興味があったから。

天宮のことを知りたいと思ったから。


不躾な質問にも、天宮は嫌な顔をせず答えてくれる。



「あ、えっと………だ、大学に通ってる。美術系の大学なんだけど。」


その答えに驚くことはなかった。


だって、俺は知っている。

覚えている。


天宮が描いた、あの絵を。

どこか幻想的な、風景画を。



先生が褒めたりなんかしなくても、俺はきっと心を奪われていたことだろう。

あの絵に見入っていたことだろう。


あの絵は、天宮そのものだ。

天宮自身の心の様に、純粋なものだったから。



「へー、そうなんだ!」

「うん、楽しいよ………とっても。」

「そっか、そっかー。天宮って、昔から絵が上手かったもんな。」


俺が素直にそう返せば、天宮の顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。

熟れた林檎みたいに赤い頬を、必死になって両手で隠してる。


見た目は完全に大人なのに、その慌てっぷりが見た目とは対照的だった。



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