さよならの魔法
中学時代の天宮を思い出した。
今みたいに大人っぽさなんてなくて、まだあどけなさを残した顔立ちをしていた頃。
彼女の描く世界に惹かれた。
デッサンは写実的なのに、色を乗せると途端に幻想的な世界になる絵。
淡い色合いが作る世界に、誰もが目を奪われていた。
だからこそ、磯崎がくだらない言葉で天宮の絵を標的にしていたのだ。
それだけ、磯崎も心の奥では認めていたのかもしれない。
天宮という存在を。
「う、上手くなんてないよ!全然上手じゃ………私なんか、まだまだなのに。」
謙虚さは、きっと昔から変わらないもの。
メイクで隠れているけれど、その奥にあるのは変わらない天宮の姿。
言い淀んでいる天宮を見て、ドキンと胸が高鳴った。
(照れてる………。)
俺の前で、天宮が照れている。
恥ずかしそうにして、真っ赤になって困っている。
ああ、可愛いな。
茜とは全く対照的な女の子だけど、そこがまた可愛らしい。
素直に、そう思った。
女の子のことを、こんな風に思ったのはいつ以来だろう。
高校時代は、勉強ばかりしていた。
恋愛に時間を割く余裕もなかったし、恋愛自体に興味もなかった。
心を大きく揺さぶる出会いも、訪れることはなかった。
俺は怖かったんだ。
心のどこかで避けていたんだ。
恋愛というものから。
恋をして、誰かと深く関わることから。
自分勝手な恋で、周りの人を傷付けてしまったから。
もう、誰のことも傷付けたくない。
友達も、俺から離れていく人のことも、誰のことも傷付けたくないんだ。
それが、都合のいいことだと知っていても。
出来るかどうか、分からなくても。
中学時代の俺は、自分のことしか見えていなかった。
自分のことしか、考えてなかった。
そのせいで、たくさんの人を巻き込んで、たくさんの人を傷付けたんだ。
初めての経験に浮かれて、周りのことなんて見えていなかった。