さよならの魔法



どうして、もっと早く気付かなかったのだろう。

もっと早く気が付いていたのならば、変わっていたこともあったはずだ。


きっと、多くの人を巻き込まずに済んだ。

傷付けずに済んだ。


未来だって、変わっていたのかもしれない。




湧き上がるのは、焦り。

気持ちを自覚した途端に、焦燥の念に囚われる。


俺は知っていたから。

分かっていたのだ。


俺と天宮には、残された時間が少ないのだということを。




(時間がない………。)


5年前とは違うんだ。

俺と天宮が置かれている環境は、あまりにも違う。


あの頃みたいに、同じ町に住んでいる訳じゃない。

同じ学校に通って、毎日顔を合わせている訳ではないのだ。



次に会えるのは、いつのことになるのだろう。


次、なんて分からない。

もしかしたら、これが最後になるのかもしれない。


この町を離れた天宮は、よほどの理由がなければ、遠く離れた今の街からわざわざここになんて来ないだろう。



次に会える時なんて、永遠に来ないかもしれない。

もし、その時が来なかったらーーー………


考えるだけで怖い。



俺は、何も知らないんだ。

天宮のこと、知らな過ぎる。


3年間も同じクラスだったクセに、知っていることは数えるほどだ。



絵が上手いということ。

本を読むのが好きだということ。

今は、別の街に住んでいるらしいこと。


俺が天宮のことで知っていることなんて、きっとそれだけ。



好きなもの。

好きなこと。

連絡先。


今の天宮に関することを、俺は知らない。



俺に残された時間は、あとどれくらいだろう。

天宮と一緒にいられるのは、あとどれくらいなのだろう。


伝えなければ。

伝えたいことがある。



5年前、言えなかったこと。

今の俺が言いたいこと。


あのチョコレートのお礼だって、まだ言えてない。



ずっと言いたかったお礼の言葉を、ゆっくりと口にした。



< 446 / 499 >

この作品をシェア

pagetop