さよならの魔法
軽やかに降り立った天宮は、俺を見ずにこう言った。
「紺野くん、あのね、私………紺野くんのこと、好きだった。」
好きだった。
その言葉が指し示す意味は、俺にとってはひどく残酷なもの。
弾むと同時に、ズキズキと痛み始める胸。
浮かれていた気持ちが、一気に奈落の底に突き落とされていく。
(好き………だった………)
好きだったということは、過去形で。
天宮の中では、過去のことになっているということで。
過去形は、現在進行形じゃない。
今のことを言い表す言葉なんかじゃない。
当たり前だ。
当たり前のことじゃないか。
心のどこかで分かってるんだ。
天宮が俺にチョコレートを作ってくれたのは、6年前。
もう、6年も前のこと。
6年も前の気持ちを、今、口に出しているだけだ。
俺は、何を期待していただろう。
何に浮かれていたのだろう。
もしかしたら、天宮が………今も俺のことを好きでいてくれるかも、なんて。
今、この瞬間も、俺のことを想っていてくれるかもしれないなんて。
どうして、そんなことを思ってしまったんだろう。
時間が経てば、人の心なんて変わる。
流れていく川の様に、気持ちだって流されて、そして変わっていくもの。
うつろいやすくて。
脆くて。
自分のものでもないのに、どうやってそれを留めておくことが出来るというのだ。
仕方がないことなんだ。
俺だって、同じなんだから。
6年も経った今も好きでいて欲しいだなんて、そんなものはただの願望でしかない。
俺の、自分勝手なワガママでしかないんだ。
「さよなら、紺野くん………。」
君が遠ざかっていく。
大好きな君が、俺の隣から去っていく。
やっと、好きだと気付いたのに。
ようやく、自分の気持ちと向き合えたのに。
好きだと気付いた瞬間に、大好きな君は俺から離れていく。
暗闇の向こうに消えていく天宮を、ただ見つめていた。
ブランコの上から、天宮が消えていった方角を見つめることしか出来なかった。
残されたのは気付いたばかりの恋心と、相変わらず情けないだけの俺。