さよならの魔法
「好きな子………?」
「ああ。」
「それって、同じ大学の子とか?それとも、同じバイト先の女の子?」
顔をようやく上げた茜が、鋭い目で俺のことを見ていた。
全てを見透かしている様な、そんな視線。
俺のことを、全て知っておきたくて。
探ろうとして。
執拗なまでのその執着は、どこから来るのだろう。
茜の激しい感情の渦が、俺を巻き込んで、俺の全てを流そうとする。
この渦から逃げられたら、どんなに楽だろう。
誰も傷付かない方法なんてあるのなら、知りたいよ。
その方法を、誰よりも知りたいのは俺だ。
でも、無理なんだ。
そんな方法なんて、存在しない。
俺達の関係においては。
誰かが誰かを想えば、他の誰かが傷を負う。
傷付けたくないと誰かをかばえば、自分が苦しみに喘ぐことになる。
一方通行の想いがある限り、必ず誰かがつらい思いをすることになるのだ。
幸せなだけの恋なんて、ない。
一方通行の気持ちは、どこかで止めなければならない。
自分か、はたまた他の誰かの手によって、止まらなければならないんだ。
そうしなければ、前になんて進めない。
未来には進めない。
「俺は、天宮のことが好き………なんだ。だから、昨日、天宮のことを追いかけた。」
何も、難しく考えることなんかなかった。
ただ正直に行動しての結果が、昨日のあの出来事だった。
素直に、自分の気持ちを口にする。
茜の目からは、大粒の涙が溢れ出した。
「どうして………、どうしてよ………。」
声にならない嗚咽の合間に、茜の本音が聞き取れる。
茜は、きっと分かってた。
俺の好きな子が、同じ大学の子ではないことを。
俺が好きになってしまった子が、同じバイト先の女の子なんかではないことを。
どうしてかって?
分からないよ。
そんなの、俺だって分からない。