さよならの魔法
理由なんて、俺が自分で1番に知りたいよ。
人を好きになることに、理由なんているのか。
恋に落ちるには、理由が必ず必要なのか。
格好いいから。
可愛いから。
優しいから。
それだけの理由で、誰かを好きになるものなのだろうか。
理由が分かる恋ならば、きっともっと早く、この気持ちを自覚していたはずだ。
もっと早く、天宮のことが好きだと気が付いていたはずだ。
理由なんてないんだ。
明確な理由なんて、今の俺にはいらない。
心が惹かれている。
気が付かないうちに、吸い寄せられる。
好きなんだ。
俺は理由がなくても、分からなくても、天宮のことが好きなんだ。
知ってしまったのだ。
「どうして、あの子なの………?何で………、よりによって………天宮さんなのよ………っ!」
そうぶちまけた茜が、ついにベンチの上でうずくまり、大きな声で泣き出した。
震える肩。
大きくはない体を丸めて、泣きじゃくる茜。
俺は、その肩に触れることは出来ない。
震える肩を抱いて、慰めてあげることも出来ない。
そんなことをしたって、茜の為にはならない。
更に傷付けることになるのだと、知っているから。
一時の優しさが茜を追い詰めてしまうことを、理解しているから。
「やだよ………、ユウキ………!そんなの、嫌だ………!!」
茜の嘆きを聞きながら、俺は黙って茜の姿を見つめていた。
逃げ出さずに、その姿を目に焼き付けていた。
見ない方が精神的に楽であろうことは分かっているけれど、俺は、きちんと茜と向き合わなければならない。
幼い俺の身勝手さで、かつて俺は茜の心を踏みにじった。
その報いなのだ。
目を背けてはいけないのだ。
それが、せめてもの償い。
俺に与えられた罰なのだと、言い聞かせながら。
「そうなんじゃないかって、ほんとはね………ずっと思ってたんだ。」