さよならの魔法
俯いていた茜が、スッと俺の方へと向き直る。
俺の目をじっと見て、逸らそうとしない。
俺の目を真っ直ぐ見つめる茜は、最後にこう聞いた。
「もう1回だけ、聞いてもいい?」
「ん?」
「私とやり直そう?」
「………っ!」
「もう1回最初から、2人で始めよう?私、ユウキのことが好きなの………今でも。」
その言葉に驚くことはなかった。
茜の態度で、茜の行動で、茜の気持ちは痛いくらいに伝わっていたから。
自惚れかもしれない。
自意識過剰なだけかもしれない。
だけど、薄々は勘付いていた。
もしかしたら、茜は今でも、俺のことを想っていてくれているのではないかと。
5年経った今でも、俺のことを考えていてくれているのではないのかと。
それは勘違いでもなければ、自惚れでもなかった。
俺の予想は当たっていたのだ。
「ユウキのこと、忘れたことなんかなかったよ。高校生になっても、大学生になってからだって、私の心はユウキでいっぱいだった………。」
胸を突く、茜の言葉。
俺はそこまで、茜のことを考えていたのだろうか。
俺はそこまで、茜のことを愛していたのだろうか。
天秤があるのなら、俺と茜の間にある天秤は、あっという間に傾くだろう。
悲しいほど、呆気なく。
茜の方へと。
忘れたことなんかなかった。
茜は俺のことをそう言ってくれたけど、俺は茜を思い出していたのか。
茜がある意味特別な存在であったことは否めないけれど、それは、茜と同じ意味じゃない。
イコールでは繋げない。
茜のことを思い出す時は、必ずと言っていいほど自分を戒めた。
そこまで傷付けてしまった人がいたことを決して忘れない様にと、自分に鎖をかけていた気がする。
好きだったからじゃない。
同じことを繰り返さない為だ。
同じ過ちを、この手で犯すことがない様に。