さよならの魔法
アパートに帰った次の日からは、大学の講義に出ていた。
大学とアパートを往復するだけの毎日は、帰ってきてからも変わらない。
そこにプラス、バイト先が加わるくらいだ。
週の半分は、大学が終わった後に小遣い稼ぎでバイトをしている。
夕方からのコンビニのバイトは、体力的にもそうきつくないから、大学生にはありがたい。
大学、アパート、バイト先のコンビニ。
自分でも驚くくらい、この3ヶ所しか行っていないことに気付く。
他の学生は、もっと大学生活というものを楽しんでいるのだろう。
青春とやらを謳歌していることだろう。
大学での講義をこなし、コンビニのバイトもやり遂げ、ようやく俺の1日が終わろうとしている。
バイト上がりに、ふいに空を見上げた。
「あ、星………。」
真上に広がっているのは、星だった。
キラキラと輝く小さな粒が、空いっぱいに広がっていた。
同じ大きさの粒なんて、1つもない。
同じ輝きの粒なんて、1つもない。
1つ1つが個性を持って、仄かに輝く。
その輝きに、目を奪われた。
「寒………!」
ブルブルと震える体を包み込む様に、着ているダウンジャケットの上から、自分の体を自分の手で抱き締める。
寒いからだろうか。
こんなにも、星が美しく見えるのは。
この街は東京ほどではないけれど、空気が澄んでいるとは言い難い。
俺が育ったあの小さな田舎町みたいに、空気が綺麗という訳ではない。
それでも、空に浮かぶ星は綺麗だ。
ふるさとほどではなくとも、広がる星は美しく見える。
そうだ。
あの日も、星を見た。
あの子の隣で。
成人式の日の夜。
同窓会を抜け出して、あの子を追いかけた日。
俺が、自分の恋にようやく気が付いた日。
脳内に再生されるのは、あの日の天宮の影。
俺の少し後ろを歩いていた、天宮の姿。
大人になった天宮が笑う。