さよならの魔法
しかし、増渕だけは違っていた。
「えー、紺野だけでやるの?大変じゃない??」
大きいリアクションで、増渕がそう嘆く。
まあ、確かにその通りだ。
日直なんて、大した仕事はない。
しかし、1人でやるとなると、話はまた別。
全ての負担が、俺にかかってくる。
面倒なこと、この上ない。
「あー、………でも、しょうがないし。文句を言っても、相方は休みなんだし。」
嘆いたところで、相方が出席してくれる訳でもない。
頼まれてしまったのだから、やるしかないことに変わりはない。
仕方なくそう呟いた俺に、増渕はこう提案してくれた。
「じゃあ、私も一緒にやってあげるよ。」
増渕のその提案は、俺にとっては予想外のもので。
だって、そうだろ。
誰だって、面倒なことはしたくない。
日直なんて、自分の番でなければやりたくないはずだ。
それなのに、増渕は言ってくれる。
自分も手伝うと。
俺と一緒に日直をやると、そう言ってくれる。
わざわざ面倒なことに、自分から関わろうとしているのだ。
なんて、優しい子なんだろう。
どうして、ここまで俺に優しいのだろう。
あまり話したこともない、ただのクラスメイトなのに。
今日までお互いを苗字で呼び合っていた、そんな薄い関係の俺に。
「いや、大丈夫だって。」
「紺野?」
「増渕は、今日の日直じゃないだろ?」
わざわざ面倒なことに、自分から首を突っ込むことはない。
みんなみたいに、普通にしていればいい。
同情の言葉の1つでもかけてくれるだけで、十分なのだから。
矢田みたいに笑いさえしなければ、それだけでいい。
困ってそう言う俺に、増渕はこう明るく返してくれた。
「いいの、いいの。だって、暇だし。困ってそうな紺野を知ってて、放ってなんておけないよ!」
「増渕………。」
「あ、じゃあ、俺も!俺も!!」
増渕に乗っかって、ついでみたいに矢田までそんなことを言ってきやがる。
さっきまで、俺の不運を笑っていたクセに。