さよならの魔法



2人で乗った、公園のブランコ。

ブランコに乗って見上げた星は、今、俺の上に広がっているものよりもずっと美しかった。


本気で手が届きそうだって、そう思ってしまったんだ。

手を伸ばせば、届くのだと。


思い出すだけで、心臓が鈍く痛み出す。




「紺野くん、あのね、私………紺野くんのこと、好きだった。」


ブランコを舞い降りた天宮が、振り向かずにそう言う。


6年前の気持ちを明かす。

今の俺に対してではなく、昔の俺に対する気持ちを。



過去は、過去。

過去は、決して今にはならない。


好きだった。

その言葉は嬉しいものであるはずなのに、その言葉が過去形であるが故に切なかった。


息が出来なくなりそうなほど、苦しくなった。



「さよなら、紺野くん………。」


好きだよ。

君が好きなんだ。


行かないで。

俺の前から消えないでくれ。


あの日言えなかった言葉が、今の俺の心までも締め付けていく。



どうして、追えなかったのだろう。

どうして、引き留めなかったのだろう。


俺は、いつも悔いてばかりだ。



(天宮………。)


天宮は、今、どこにいるのだろう。

天宮もまた、同じ様に空を見上げているのだろうか。


好きなのに。

こんなにも恋しいのに、会えない。


連絡をする手段すら、俺にはないのだ。



この地球上の同じ国にいるのに、会うことが出来ない。



俺は、きっとこれからも思い出す。

星を見る度、天宮のことを。


あの夜を思い出して、切なくなるのだろう。



いつかは忘れられるのか。

新しい恋をすれば、今のこの苦しさから逃れられるのか。


そんな日が来るのだろうか。



いつ訪れるかも分からない、その時を思い浮かべて、1人虚しく夜道を歩き続けた。



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