さよならの魔法
笑いを隠そうともせず、同情の言葉さえかけなかったクセに。
矢田の考えなんて、分かってる。
分かりきってる。
コイツ、増渕と一緒にいたいだけだ。
お気に入りの増渕と一緒に、日直の仕事をしたいだけに決まってる。
間違いない。
1組と3組。
別のクラスの矢田と増渕は、同じクラスで同じ日に日直になることは決してない。
矢田がどんなに願っても、その願い事だけは叶わないのだ。
1年の頃から、矢田は増渕のことを気にしていた。
俺が増渕という存在を知るよりも先に、矢田は増渕のことを気にかけていた。
だから、このチャンスを何としてでも掴み取るつもりらしい。
「バカか、お前は。矢田、お前はクラスが違うだろうが!」
「えー、別に関係なくねー?」
「別のクラスのお前が、うちのクラスの日直やってどうすんだよ。」
考えれば、すぐに分かるだろうが。
そもそも、増渕が相手でなければ、日直をやりたいだなんて言い出さないだろう。
この男は、そういうヤツだ。
「紺野が大変そうだから、手伝ってやるって言ってんだろー。」
「いや、お前の手伝いはいらねーから。ほんと、結構です。」
「いいよ、いいよ。お礼なんて、いらないから。」
頑として譲らない矢田に、そんな矢田を冷たく突き放す俺。
俺と矢田を、増渕が微笑んで見つめている。
「あ、増渕さーん!俺、矢田。3組の矢田 大地!!」
「3組の矢田くん」
「そうそう。紺野くんの大親友だから、俺とも仲良くしてね!」
可愛い子ぶって気持ち悪く首を傾げながら、矢田がちゃっかり自己紹介してる。
変わらない様で、少しずつ変わっていく。
俺も、矢田も。
クラスメイトとの関係も。
視界の端に消えてしまった、1人の女の子のその後。
縮こまっていたあの子のその後を、俺は知らないままで笑っていたんだ。
あの子が追い詰められていくことを、知らないままで。