さよならの魔法



紺野くんの笑顔に惹かれた。

紺野くんの笑顔に魅せられた。


薄いブルー。

透き通った、ふるさとの空の色。


私が一瞬で恋に落ちてしまった、その色を描いてみたい。




空を描こう。

もし自由に描かせてもらえるのならば、ふるさとの空を描こう。


この東京では見られない、澄んだ空を。

見上げても、もう見ることの出来ないあの空を。



決めてたんだ。


空を描こうって。

紺野くんみたいな青空を描こうって、最初から決めてたんだ。





夢中で、筆を動かした。



昔から、そうだった。


筆を動かしている間だけは、嫌なことを忘れられた。

絵や本に没頭している時間だけは、現実から逃げられた。


私にとって絵とは、現実をほんの束の間、忘れさせてくれる手段の1つだったのだ。

いじめられているという現実を忘れさせてくれる、貴重な手段だった。



「あ、えっと………だ、大学に通ってる。美術系の大学なんだけど。」

「へー、そうなんだ!」

「うん、楽しいよ………とっても。」

「そっか、そっかー。天宮って、昔から絵が上手かったもんな。」



同窓会の日。


同窓会を抜け出して、2人で夜道を歩いて。

ふと思い出したのは、紺野くんに最後に会った時のこと。



夜の公園で、紺野くんはそう言ってくれた。

あの頃の私のことを、そう言ってくれたのだ。


最後に会ったあの日のことは、今でも私の脳に刻み込まれている。



(紺野くん………。)


ふいに思い出す。

何っていうことはない瞬間に、紺野くんのことを思い出してしまう。


その度に、私は思い知るのだ。



胸を焦がした、淡い恋。

時を経てもなお、褪せることのない想い。


未だに、彼は私の心を揺らす。

目の前にいなくても、どこにいるか分からなくても、初恋のあの人は、私の心を大きく揺り動かす。



ああ、私、忘れてない。

全然、忘れてなんかいないんだ。



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