さよならの魔法
彼が好きだ。
紺野くんのことが好きだ。
初めて出会ったあの春の日から、私はずっと彼のことが好きだった。
ずっと好きで、忘れることなんか出来なくて、今、この瞬間も好きなんだ。
時間が経てば、何かが変わってくれると思っていた。
ずっと、このままな訳じゃない。
新しい恋をして、他の人を好きになって、そうして彼のことを忘れていくものなのだと信じていた。
初恋なんて、叶わない人の方が圧倒的に多いだろう。
思い通りに好きな人と結ばれる人なんて、ごくわずかなのだろう。
分かってるんだ。
いつまでも、こうして想い続けていても仕方がないのだと、自分でも分かっているのだ。
でも。
それでも、忘れられない思い出がある。
消せない思い出がある。
変わらない、変えられない気持ちがある。
紺野くんには、彼女がいる。
大切な人がいるって、知ってるよ。
私が変われない様に、紺野くんにだってそういう気持ちがある。
それは、どうにも出来ないこと。
もう、告白しようとは思っていない。
追いかけようとは思えない。
ただ、好きなの。
どうしたって、好きな気持ちを捨てられないの。
結ばれないことは知ってる。
叶うことのない恋であることも、あの頃と変わらない。
変わっていくものと、変わらないもの。
変えられないもの。
この世には、どうにもならないことがある。
どうしようとも、思い通りにならないことがたくさんあるのだ。
(会いたい………な。)
あの人に会いたい。
紺野くんに会いたい。
もう会えない人なのだと、頭では理解しているけれど。
無理な願い事なのだと、自分でも分かっているつもりだけど。
だけど、会いたいよ。
それでも、紺野くんに会いたいよ。
顔が見たい。
声が聞きたい。
紺野くんに会いたい。
そう思った瞬間だった。