さよならの魔法
『始まりの日』
side・ユウキ







目を閉じれば、思い出す。

思い出してしまう。


まだ、中学生だった頃の君。

大人になって、再会してからの君。


いろんな君の姿が浮かんでは消え、そして再び浮かび上がってくる。



その度に、胸が痛むんだ。

はち切れそうなほど痛んで、俺を苦しめる。


あの頃の君の影が。

あの夜の君の影が。




好きだ。

好きだよ。


天宮のことが好きなんだ。



だけど、会えない。

好きなのに、いくら望んでも君に会うことは出来ない。


大好きな君に会えることはなく、時だけが過ぎていく。

想いを伝えることのないまま、更に大人になっていく。



もどかしかった。

どうにもならないこの状況が、堪らなかった。


思い出さなくなる日まで、俺は待つしかないのか。

この想いが消えてなくなるその日まで、ずっとこの苦しみの中に身を置かなければならないのか。


俺は。

俺はーーー………




好きだよ。

今でも、君のことが。


好きなんだ。



だからこそ、君のことを考えたくない。

思い出したくない。


消えてくれ、とさえ思う。


思い出すのがつら過ぎるのだ。





「紺野くん、あのね、私………紺野くんのこと、好きだった。」


聞かされた、君の想い。

それは、中学時代のもので。


自分の気付いたばかりの気持ちを、口に出すことは許されなかった。

都合よく、自分の想いを押し付けることなんて出来なかった。



「俺も、天宮のことが好きだよ。」


なんて。

俺だけが、今も天宮のことが好きだなんて言えなかった。


天宮の気持ちは過去のものだけど、俺はそうじゃない。

俺の気持ちは過去のものでもあり、今のものでもある。



言える訳がない。

伝えられる訳がない。


自分勝手な男になりたくない。



だから、封をした。

無理矢理、自分の気持ちを閉じ込めた。


もう2度と、這い上がってこない様に。

思い出すことがない様にと。



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