さよならの魔法
地方都市にある大学を、俺は無難な成績で何とか卒業することが出来た。
結局努力に努力を積み重ねても、上まで登り詰めることは出来なかった。
当たり前だ。
あそこは、俺の生まれ育った小さな町じゃない。
小さな世界を飛び出せば、広がるのは無限大の宇宙。
上には、いくらでも人がいる。
頭がいいヤツなんて、数え出したらキリがない。
そんな中に身を置いていたけれど、俺なりには頑張っていたつもりだ。
1番にはなれなくても、それだけが全てではない。
大学の成績だけで、これから先の未来が全部決まってしまう訳ではないから。
就職難の時代。
大学を卒業しているというだけで、簡単に就職が決まった昔とは違う。
地元に戻ろうとは思わなかった。
地元に戻ったところで、あの小さな町では就職先を探すことさえままならない。
コネでもなければ、故郷で就職することは難しかったことだろう。
「ユウキ、こっちに戻ってこないの?」
母さんはそう言って、寂しそうな顔をしていたけれど。
こればかりは、どうしようもない。
大学がある街で就職先を探そうとも考えたけれど、俺はその無難な選択肢を自ら捨てた。
あの言葉を思い出したから。
中学時代の担任だった、佐藤先生の言葉を思い出したから。
「天宮さん、引っ越すのよ。どこって言ってたかしら…………確か、東京かどこかって聞いたけど。」
「とう………きょう………?」
「詳しい場所までは知らないけど、そろそろ着いてる頃じゃないの?」
中学校を卒業してから、数日後。
職員室で聞いた、恩師の言葉。
佐藤先生、あの言葉は本当ですか。
天宮が東京に行ったというのは、事実ですか。
あの言葉が、もし本当ならば。
嘘ではないのなら、東京にあの子がいる。
いや、違うな。
少なくとも、7年前までは東京にいたということになる。
今、現在の彼女の住所を、俺は知らない。