さよならの魔法



「ははは………っ、バカじゃん………俺。」


俺の口から、乾いた笑いが漏れる。



末期症状だ。


あまりにも会いたいと思うから、願ってしまったから、似ているだなんて思ってしまうのだ。



好きで。

好きで。

大好きで、どうしても忘れられなくて。


自覚した直後にさよならを告げられたあの日から、天宮のことを思い出さない日はなかったんだ。

つらくて思い出したくなくても、俺はやっぱり天宮のことを思い出してた。



思い出す度に胸が痛んで、心が少しずつ壊れていく。

叶わない想いをどこにも捨てられなくて、思い出すことを何度も止めようとした。


会いたかった。

天宮に会いたかった。



好きなんだよ。

末期症状が出てしまうほど、天宮のことが忘れられないんだ。


捨てられたらいいのに。

この気持ちを、どこかに置いてきぼりに出来たらいいのに。



「ほんとに、もう行かなきゃ………。」


そう思って立ち上がった瞬間、人影が見えた。










幻だと思った。

まだ太陽が出ているのに、幽霊でも見ているのかと思ってしまった。


有り得ないことだったから。

有り得ないと思い込んでしまうほど、可能性が限られたことだったから。



限りなく、0に近い。

叶う可能性が極めて低いはずだった、俺の願い事。


0に近い可能性でも、0じゃない。

0.1パーセントでも、決して0ではない。


そのことを知る。



グレーの長袖のTシャツに、細身のジーンズ。

ベージュ色のエプロン。


アップにした長い髪が、サラリと動きに合わせて揺れる。



俺が、一瞬にして目を奪われた壁画。

空の絵の下に立つ、1人の女性。


何か小さな物を持って、絵を見上げているその人はーーー………



嘘だろ。

嘘、なんだろ?


まさか、天宮?

天宮なのか?



ドクンと、心臓が大きく脈打つ。



走り出したら、止まらない。

止められない。


確かめずにはいられなかった。



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