さよならの魔法
後ろ姿しか見えないその人は、別人かもしれない。
天宮ではなく、俺の知らない誰かなのかもしれない。
だけど、それでも、確かめたい。
あれが天宮なのだと、信じたい。
近付いていく距離。
距離が縮まるほど、俺の鼓動もより速くなる。
手を伸ばして、か細いその人の手を掴む。
振り向いた、その人。
その人物は、俺の予想通りの人だった。
「………!?」
振り向いたその人の目が、見開かれる。
大きく、大きく。
「………どうし……て………」
見開かれた瞳の中に映るのは、スーツ姿の俺。
彼女が持っていたのは、絵筆だったらしい。
やはり、この絵を描いたのは天宮だった。
彼女だったのだ。
驚いた天宮が、絵筆を地面へと落としてしまった。
どうして?
それは、俺だって知りたい。
もう会えないと思っていた天宮が、ここにいる理由。
ここで、絵を描いている理由。
再び出会えたことに、偶然以外の理由があるのだろうか。
出会うべくして、俺と天宮は出会えたのだろうか。
そうだといい。
偶然なんかじゃない。
奇跡でもなく、もしこれが運命だったならいいのに。
「天宮………。」
「紺野くん………。」
落ち着いた声音が、俺の鼓膜を震わせる。
声を聞けば、更に実感出来る存在感。
ああ、天宮だ。
本物の天宮なんだ。
同窓会の時と変わらない。
いや、あの時よりもずっと大人びて、もっと美しくなった。
天宮の目から、1粒の涙が零れ落ちる。
涙が夕焼けに反射して、オレンジ色に光り輝く。
オレンジ色に染まっていく、天宮の姿。
俺はそんな彼女を、飽きることなく見つめていた。
俺が会いたかった人。
俺が助けたかった人。
俺の心を掴んで離さない天宮が、今、俺の目の前にいる。
会いたかったよ。
ずっとずっと、会いたかった。
気が遠くなるほど、この日を待ち望んでいたんだ。
再び巡り会える、そんな日をずっと待っていた。
今、ここから、何かが始まる予感がした。
【side・ユウキ 完】