さよならの魔法
寒い。
寒いよ。
足だけじゃなくて、心も寒さで震える。
どうして、こんなことをされなくちゃいけないの?
どうして、こんな嫌がらせをされなくちゃいけないの?
理由さえも教えてもらえない。
理由がなくても、こうして嫌がらせをされる。
理由があろうと、理由がなかろうと、他人をいじめるなんてことをしてはいけないのだ。
そもそも、そこが間違っている。
他人を貶める権利なんて、誰にもない。
理不尽に誰かを追い詰めるなんて、してはいけないこと。
泣きたいのを、必死に堪える。
瞳から溢れそうになる涙を、歯を食い縛って我慢する。
泣きたくない。
磯崎さんの前でだけは、泣きたくない。
この人の前でだけは、どんなにつらくても泣きたくなんかない。
私が泣けば、磯崎さんは喜ぶ。
きっと嬉しそうな顔をして、同じことを繰り返す。
初めてじゃない。
こういうことをされるのも、我慢するのも初めてなんかじゃない。
泣きたくないとそう思うのは、私にもプライドというものがあるから。
私にも、意地というものが存在しているから。
みんなの前で泣きたくない。
特に、磯崎さんの前でなんか泣きたくない。
小さなプライドだけが、私をかろうじて支えている。
事態を静観している、周りのクラスメイト。
私に言葉をかけてくれる人は、1人もいない。
私に手を差し伸べてくれる人も、誰もいない。
したくても、そう出来ないのだ。
そんなことをしたら、目を付けられる。
このクラスのリーダー的な位置にいる彼女に、恨まれる。
自分が標的になるのが怖いのだ。
自分の身が可愛いから、標的にされたくないのだ。