さよならの魔法



(まあ、俺も出席する為に残ってるんだけどさ。)


思い出すのは、中学時代の記憶。


楽しかったこと。

笑い合った思い出。


ふとよぎった、ある女の子の顔。





(………!)


どうして。

どうしてだろう。


思い出してしまうのは。



俺には、忘れられない女の子がいる。

たった1人だけ、どうしても忘れられない子がいるのだ。


3年間、同じクラスだった女の子。


あまり話したことの彼女の顔が真っ先に浮かんで、どんどんどんどん俺の頭の中を占領していく。



今では、おぼろげにしか思い出せないクラスメイトだっているのに。

名前がパッと出てこないヤツだって、何人もいるのに。


あの子の顔だけは、今でもはっきりと思い出せるんだ。



おかしいよな。


付き合っていた彼女でもないのに。

ただのクラスメイトだっただけなのに。



忘れられないんだ。

どうしても、忘れられない。


最後に会った日に見た、あの子の涙が。

頭から離れなくて、今でもこうやって時折思い出してしまうんだ。




「あら?それ、この間届いた、同窓会のハガキ?」


母さんが不思議そうに、そう尋ねる。

興味津々といった感じだ。



「ああ、そうだよ。………何だよ?」

「ユウキ、同窓会に出るの?」


そう聞く母さんに、俺は即答する。



「もちろん。」




楽しいことが多かった、中学時代の記憶。

その記憶に影を落とす、1つの存在。


それが、あの子。



天宮 春奈。

あの子は、同窓会に来るのだろうか。


今の俺の最大の関心事は、それなのかもしれない。



一瞬だけ目を閉じて、懐かしいあの頃に思いを馳せた。



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