さよならの魔法



状況は、何も変わらない。

好転することはない。


磯崎さんからのいじめは、相変わらず続いている。



学校に行きたくない。

行きたくない。


浴びせられる言葉に傷付いて。

悪意のある行為に傷付いて。



ああ、今日も学校だ。

学校に行かなくちゃいけないんだ。


そう思うだけで、憂鬱になる。



それだけじゃない。


紺野くんと増渕さんのことが、追い打ちをかける様に私を追い詰めていく。



学校になんか行きたくないよ。

教室になんか行きたくないよ。


だって、またいじめられるだけ。

だって、仲がいいあの2人を見るのはつらいだけだ。



少し前までは違っていた。

学校に行くことが楽しかった。


学校に行けば、好きな人に会える。

友達なんていなくても、誰も話しかけてくれなくても、大好きな紺野くんの顔が見れる。


それだけで良かったのに。

それだけが、私の楽しみだったのに。



待ちに待った夏休み。


私を残酷な現実から遠ざけてくれる夏休みが、ようやく始まった。








ミーン、ミンミン。

蝉の鳴く声が、あちらこちらから聞こえる。


まるで、その鳴き声はシャワー。

細やかな音が、シャワーみたいに降り注ぐ。



湿気を含んだ、生温い空気が充満する。


蒸された空気に満ちた、私の小さな世界。

私が生まれた、小さな町。


空を見上げれば、真っ青な空。

思わず絵に描きたくなる様な、高く高くそびえ立つ白い雲。



「ふう………。」


今日も暑いなぁ。

蒸し暑い空気は、サウナにいるかの様な錯覚さえ感じさせてくれる。


風も吹かない。

淀んだ空気。



私と空を遮る物は、何もない。

この町には、それほど高い建物なんてないのだ。


私と空との間を遮る物体なんて、数えるくらいしかないだろう。



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