さよならの魔法
『小さな恋の始まり』
side・ハル







12歳の春。


自分の名前と同じ季節。

たったそれだけのことに、ちょっとだけドキドキしているのは何故だろう。



真っ赤なランドセルを背負って学校に通っていた先月までとは、全然違う。


新品のセーラー服。

濃紺のセーラー服の襟には、真っ白なラインが3本。


ラインと同じく真っ白なスカーフを、胸の前で結ぶ。



紺色のプリーツスカートに付いた、薄紅色の桜の花びら。

淡い色合いのそれを、そっと払う。


ヒラヒラ。

踊る様に、地面に花びらが落ちていく。





天宮 春奈、12歳。


先月小学校を卒業して、今日から中学生になる。

今日が、中学校の入学式なのだ。



内陸部にある、海がない県。

山に囲まれた、小さな町。


大きなビルなんか、1つもない。

超が付くほどのど田舎。


そこが、私が生まれ育った町。



両親は、元々親戚同士だった。

両親が生まれ育ったのも、この小さな田舎町。


狭い世界の中で育てられた私だけど、この小さな町が嫌いという訳じゃなかった。

むしろ、好きだった。




緑溢れる、豊かな森。

透明な水と、澄んだ空気。


空気が綺麗だからなのか。

空はどこまでも透き通り、果てなく青い。



絵になる風景が、この町にはある。

わざわざ他の場所に行かなくても、この町はただそこにあるだけで絵になる。


この町の景色は好き。



だけど、嫌いな部分もある。


それは、閉鎖的な人間関係。

独特の陰湿さが、私はどうしても苦手だった。








校門をくぐれば、人だかりが目に入る。


新品の制服を身に纏う集団。

人だかりの正体は、私と同じ新入生。



山あいにある、小さな町の中学校。

しかし、その規模は決して小さくはない。


近隣にあるいくつかの小さな小学校を卒業した子が、みんなこの学校に入ってくるのだ。



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