さよならの魔法



電車。


そうか、その手があった。

海まで電車で行こうなんて、考えたこともなかった。


さすが矢田、というべきだろう。



「でも、時間的に大丈夫なのか?」

「朝早く出れば、1日遊んでも何とか帰れるだろ。その代わり、始発に近い電車に乗ることになるけどな。」


始発に近い電車に乗って、3時間。

きっと、午前中のうちには着く。


そこから遊んで。

昼飯も食べて。


夕方前に出れば、帰る頃にはとっぷり日が暮れているだろうが、この山あいの町に着くはず。



「電車とか、お前………よく、そこまで考えつくなー。俺、電車に海に行こうなんて、考えたこともなかったわ。」

「褒めろ、褒めろ!もっと褒めてくれ!!」


あ、調子に乗ってきやがった。

矢田のバカ。



「俺と紺野と、増渕には誰か友達も誘ってもらってさ。4人で、一緒に海に行こうぜ。」


(………そういうことか。)


茜と付き合い始めたことを告げた時に、矢田は言っていた。


茜の友達を、紹介してくれと。

それも、可愛い子限定でと。


あの言葉は、本気だったらしい。



「んー、俺は別に構わないけど。茜は聞いてみないと分かんないぞ?」

「お願い、紺野くん!増渕に頼み込んで!!寂しい俺に、夏休みの素敵な思い出を下さい。」


寂しい俺って。

夏休みの素敵な思い出って。


そう言われたら、断れないだろうが。



矢田から好きな人を奪ったのは、俺。

友達よりも恋を取ったのは、俺。


浮かれて、矢田を裏切ったのだ。

そのくらいのこと、してあげたい。


せめてもの罪滅ぼしだと、そう思うから。



「分かった、分かった。聞いてみるから。」

「よっしゃー。すっげー可愛い友達連れてきてって、増渕にお願いしといてなー!」


隣でガッツポーズまでして、喜んでる矢田。


そんなに喜んでるなら、まあ、いいか。

矢田の喜ぶ顔を見るのも、悪くない。



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