さよならの魔法



「じゃあ、あれと比べたら、どっちがいい?」


校庭でそう言って、茜とあの子を比べていた矢田。

比較されていたのは、同じクラスの天宮だ。


大人しい天宮。

目立たなくて、どちらかといえば地味な天宮。



そんな天宮と、茜は正反対。

林田もまた、天宮とは全く別のタイプと言い切っていいだろう。


どちらがいいとは、一概には言えないけれど。

好みは人それぞれだけど、要は矢田の嫌いなタイプの女ではないということだ。



「茜の友達の、林田 優美でーす。初めまして!」

「あ、茜ちゃんの彼氏の親友の矢田です!今日はよろしくね。」


誰が親友だよ、誰が。

親友というより、悪友だろうが。


矢田は一瞬だけ緊張した様な表情を見せたけれど、すぐに軽い口調で挨拶を始める。

林田も気後れすることなく、気さくに矢田に話しかけてる。


これなら、打ち解けるのも時間の問題なのかもしれない。



「大丈夫そうだね?」

「ははっ、そうだな。」


隣に立つ茜と、目が合う。

挨拶を交わす2人を、俺の隣で眺めている茜。



矢田も林田も、お互いに顔くらいは知っていたのだろうか。


2人は同じクラスにはなったことはないはずだけど、同じ学校の同じ学年の生徒。

同級生なのだ。


話したことはないとはいえ、顔を知っていても不思議ではない。



だけど、まともに会話をするのは、きっと今日が初めてのはず。

そんな矢田と林田は、傍から見ていて微笑ましいのだ。


学校という狭い箱を飛び出して、同級生と顔を合わせる。

しかも電車に乗って、海に行くのだ。



小さな子供みたいに、ワクワクする。

いつもとは違う状況に、心が弾む。


ちょっとした冒険みたいだ。

大人に話したら、バカにされそうなほど、ちっぽけなことだけど。



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