さよならの魔法



それでも、俺達にとっては大きな旅であり、大人に近付く為の一歩となる。

踏み出す為の一歩。


こういう小さな経験の積み重ねが、未来に繋がるのだから。



何も経験しないまま、大人になれる訳じゃない。

何もないまま大人になったとしても、きっと、空っぽの大人になるだけ。


いろいろなことを経験して、大きくなっていく。

それが、今の俺にとって必要なこと。



「ユウキ。」

「ん?」

「今日は、いっぱい楽しもうね。」

「そうだな。」


今日という日は、もう2度と訪れない。

今日が終われば、明日になる。

同じ日は、1日もないから。


ならば、楽しもう。

今日という、1日しかない日を。


最高の1日になりそうな予感がした。









ガタン。

ゴトン。


電車に揺られること、3時間近く。

車窓の景色が、目まぐるしく変わっていく。



途中で乗り換えの為に電車を降りて、別の電車に乗り移る。

ターミナル駅はすごい人だかりだったから、隣にいる茜の手を引いて。


はにかんだ茜が、俺の手を握り返す。



「ユウキ、ありがと。」

「いいよ、別に。人が多いから、気を付けて。」

「分かった!」



こんなに長い時間、電車に乗った経験はなかった。

だから、少し不安でもあったんだ。


飽きないだろうか。

暇はしないだろうか。

そもそも、乗り換えの電車にきちんと乗れるだうか。


しかし、そんな不安は、すぐに消えた。




「ユウキ、お菓子持ってきたんだけど………食べる?」

「茜、悪いな。1個、ちょうだい。」

「あー、紺野のクセに!イチャつきやがって………腹立つ!!」

「うるせー、矢田。付き合ってんだから、別にいいだろ。」


むしろ、まだキスだってしてないし。

健全なお付き合いをしているつもりだ。

我ながら。


プラトニックだっつーの。



< 95 / 499 >

この作品をシェア

pagetop