さよならの魔法
「矢田くん、私ので良かったらあげるよ。」
「え、ほんとに?ありがとー!!」
林田からお菓子を受け取った矢田が、感激して目を潤ませている。
おい、矢田。
お前、そんなにお菓子が食べたかったのかよ。
お前がそんなに食い意地張ってるなんて、初耳なんだが。
「そうだ、私、トランプ持ってきたんだー。みんなでやらない?」
「お、いいね。まだ到着まで時間あるしね。」
「ババ抜きしよーよ!負けた人が、電車降りてから荷物係ってことで。」
「………あー、負けたくない。すっごい負けたくないわ。」
「よーし、順番決めんのに、じゃんけんするぞ!」
溢れる笑い声。
途切れぬ会話。
くだらない話ばっかりだったけど、腹の底から笑えた。
盛り上げようと張り切る矢田と、その隣に座る林田。
矢田の向かい側に座って話に加わる俺と、俺の横で相槌を打つ茜。
俺達4人が座るボックス席は、輝きで満ちていた。
海に着いた頃には、太陽はもう空の真ん中。
空高く昇る太陽が、強い陽射しで地球を照らす。
ギラギラと強く光る太陽の下で、水着に着替える。
去年買って何度か着ただけの、膝下の丈の青い水着。
青いグラデーションは、この海の色と同じ。
学校指定の海パンじゃないから、多分、それなりに見えていることだろう。
際立って、ダサいということはないはず。
「見て見て、紺野。」
「それが、新しく買ってきたっていう水着?」
「今日の為に、気合い入れてみましたー!」
矢田はわざわざ、昨日、新しい水着を買いに出かけたらしい。
県庁がある、俺達が生まれ育った小さな町よりもずっと大きな町に出かけて。
部活が終わってから、慌てて電車に飛び乗ったと言っていた。
その行動力は、どこから湧いてくるんだか。
矢田らしいけど。