さよならの魔法
(どんだけ気合い入ってんだよ、矢田………。)
それだけ、今日という日を楽しみにしていたのだろうか。
ちょっと呆れるけれど、そんな矢田らしさが俺は意外と好きだ。
口が腐っても、本人には言わないけど。
矢田と会話をしているうちに、海の家の更衣室を借りて着替えていた、残りの2人が合流した。
「ユウキ、お待たせ。」
そう声をかけられた瞬間、ドキンと心臓が跳ねる。
「あ、かね………。」
俺に駆け寄る茜は、先ほどよりも大胆な格好。
艶やかな花柄の水着を身に纏い、惜しげもなく、その瑞々しい肢体を露わにしている。
これを見て、ドキドキするなと言う方が無理だ。
ドキドキしなかったら、むしろ男じゃないだろ。
黒地に、濃いピンク色の大きな花が描かれた水着。
学校指定の、全身を覆い隠す様な水着なんかじゃない。
布地の部分なんて少なくて、見てはいけないであろうお尻が、もう半分近く見えそうになっている。
ビキニタイプの水着。
胸の谷間まで見えてしまって、思わず見ているこっちの方が隠してあげたくなってしまう。
中学生にしては大人っぽい水着を身に付けた茜に、俺の視線は釘付けだった。
(うわ、やばいだろ………これ。)
こんなにドキドキするのは、生まれて初めて。
こんなに鼓動が速くなるのも、初めてのこと。
だって、そうだろ。
俺だって、男だ。
矢田みたいに女の子に多大な関心がある訳ではないけれど、全く関心がないと言えば嘘になる。
女の子が嫌いなら、彼女を作ったりしない。
特定の誰かを、彼女にしたいと思わない。
全く関心がなければ、あの時の茜の告白も迷いもなく断っていたことだろう。
茜に、ドキドキしているのだろうか。
水着に、ドキドキしているのだろうか。
それはよく分からなかったけど、その姿にときめいていたことだけは事実だ。