さよならの魔法
「わ、優美ちゃん………可愛ーい!」
隣にいる矢田の目には、茜は映っていないらしい。
茜が連れてきた林田の水着姿に、夢中になっている様子。
林田が着ている水着は、茜が身に付けている水着よりも露出は少ない。
ビキニではなく、タンクトップ型の可愛らしい感じの水着だ。
それでも、矢田にそんなことは関係ないらしい。
そういう俺も、林田の水着なんて、大して見てはいないのだけれど。
「ね、ユウキ。」
「ん?」
「どう………かな?ちょっと頑張ってみたんだけど、何だか自信なくなってきちゃって。」
俺の手を軽く引っ張りながら、茜が伏し目がちにそう聞く。
自信がない。
そう呟く茜に、何かを言ってあげなければ。
自信を付けてやれる様な言葉を、かけてあげなければ。
言葉なんて、そうすぐには出てこない。
焦るばかりで、固まる一方。
そんなことはないのに、急かされている気分だ。
目の前には、大胆に肌を露出した茜。
俺の彼女がいる。
可愛くて、自慢の彼女。
非の打ち所のない彼女を前にして、何を言えばいいのだろう。
真っ赤になって固まる俺を見て、先ほどまで林田のことしか眼中になかった矢田が口を開いた。
「茜ちゃん、大丈夫だって。コイツ、女に対する免疫なくて照れてるだけだから!」
「………おい、矢田。」
「なー!」
痛いところを突かれた。
矢田に気を取られている場合なんかじゃなかった。
矢田の言葉を否定出来ない。
矢田の言葉の通りだ。
すごく、癪に触るけど。
茜は、俺にとって初めての彼女で。
茜との全てが、初めてのことばかりで。
みんなの前で、恋人らしく振る舞うこと。
それを、茜が望んでいることも知っている。
だけど、恥ずかしくて。
照れ臭くて。
そういうことに慣れていないから、戸惑うだけだった。
そうしてあげたくても、俺はなかなかその願いを叶えてあげられない。