偽りの婚約者
「……どうかな?」
彼はニヤッと悪い笑みを浮かべた。
朝起きたら知らない男の人のベッドにいて、それだけでもパニックなのに、からかうような態度にカチンときた。
「は、はぐらかさないで下さいっ!」
「そんなに知りたいなら、教えてやるよ」
彼の含みのある言い方が余計に私の不安を増長させた。
「どうなんですか?」
パッと意地の悪い笑みが顔から消え、どうでもいいような表情に変わった。
「別に何もしてねぇよっ。起きたんなら早く支度しろ、送って行くから」
「けっ、結構です!
自分で帰りますから」
男の人が部屋を出て行った後、急いで支度をして音を立てないように玄関をそっと出た。
完全にマンションから出た後、やっと安心して詰めていた息を吐いた。
これ以上この見知らぬ男の人と関わりたくない。
それは、あの人も同じだろうけど。
今頃は迷惑な女がいなくなって喜んでいるはず……。