偽りの婚約者


紗季さんは主任に渡す書類を持って席を立った。



あの日、紗季さんから逃げるように飛び出してきて気まずいなって思ってた。



でも、紗季さんはずっとその事には触れずに、いつも通りにしてくれてた。



東條さんとの事をずっと気にしていてくれたなんて紗季さんってやっぱり頼りになる先輩だよね。



書類を渡しながら主任と話しをしている紗季さんを見ていたら主任と目が合ってしまった。


え?何だろう……。
主任は長い間、私から視線を外さずに見てた。
また何かミスでもしてしまっただろうか……?


あっと、これ急ぎだったんだお昼までにやってしまわないと。
ちょっとして紗季さんが戻って来たから訊いてみた。


「私また、何かミスしてしまいましたか?」



「えっ?、何の事なの?」



「違うんですか?主任が紗季さんと話しながら、こっちを見ているみたいだったから、また何かやっちゃたのかと……」


「千夏の話しはしてないわよ。ミスしたなんて聞いてないし大丈夫でしょ」


良かった。私が何かしたわけではないみたい。
とりあえず安心した。
でも、主任はどうして私を見ていたんだろう?



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