偽りの婚約者
私と東條さんは恋人として付き合い始めた。
週末は東條さんのマンションに泊まって行く事もある。
今日も泊まることになっている。
東條さんは仕事で帰りが遅くなるから先に来て部屋で待っていると。
ガチャッとドアが開く音がして東條さんが中に入って来た。
「東條さん」
「待ったか?」
「そんなには、待ってないですよ」
「そうか、ここに帰って来た時に誰かが待っててくれるってのはいいもんだな」
東條さんはネクタイを緩めてスッと私の前に立ち私の顎を持ち上げて私の目をじっと見つめて来た。
近いよ~。恥ずかしい……。
「まだ聞いてない」
「えっ……?」
「おかえりって」
「あっ……え……と、おかえりなさい?」
「フッ……ただいま千夏」
結婚した旦那様に言うような言葉みたいで気恥ずかしくて疑問系になってしまった『おかえりなさい』に東條さんは『ただいま』と返した後、口づけして来た。
こうなると、もう何も考えられなくなり暫く、彼からの甘い口づけに酔いしれるように身を任せた。