偽りの婚約者
愛しい彼女が待っていてくれると思うとはやる気持ちを抑えられない。
一刻も早くマンションに帰ろうと、ついアクセルを踏む足に力が入ってしまう。
「東條さん」
彼女は帰って来たのが分かると玄関に小走りでやって来た。
「待ったか?」
「そんなには、待ってないですよ」
「そうか、ここに帰って来た時に誰かが待っててくれるってのはいいもんだな」
ネクタイを緩めて千夏の前に立ち顎を持ち上げてキスしようとすると恥ずかしそうに顔を赤らめた。
こういうとこが可愛くて仕方ない。
「まだ聞いてない」
「えっ……?」
「おかえりって」
「あっ……え……と、おかえりなさい?」
「フッ……ただいま千夏」
千夏が隣にいてくれるだけで、こんなあったかい気持ちになれる。
こんな風に感じられたのは、いつぶりだろう――――。