偽りの婚約者
「……はぁー……」
「……千夏、さっきからため息ついてばかりだけど。どうかした?」
隣で仕事をしている紗季さんが、心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫です。何でもないです」
「そう?ならいいんだけど……。
そう云えばパーティーの時はどうしたの?途中で帰って来なかったよね」
「そうだよ千夏。あの時は気がついたら、いなくなっていたし……先に帰るなら、ちゃんと言ってよね。
心配したんだから」
「ごめんなさい。飲み過ぎて具合が悪くなってしまって……そのまま帰ったんです」
二人には朝、起きたら知らない男の人のマンションにいた、なんて事はさすがに言えなかった。