偽りの婚約者
伯母の一言で両親達は席を立ち始めた。
こ、困るよ!!今このタイミングで置いてかないでよっ。
慌てて、隣にいたお母さんの手を引っ張ってひ引き止めようとした。
「お母さん、ちょっと待ってよ……!」
「お互いを知るいい機会だからいろいろと、お話ししてみたら」
そう耳打ちして行ってしまった。
そんな事言ったって……知らない相手と急に二人っきりにされたって困るよ。
何を話せばいいのか分からない。
仕方なく愛想笑いをしながら相手の方を見た。
「……急に二人っきりにされても、困りますよねぇ」
「着物、似合ってるよ。この間と感じが違ってまたいいな」
……はぁー?
私はあなたと知り合い?見覚えがない……。
じゃあ、この人の勘違い?
どう考えてもそれしかない。
知り合いのような口調で話しかけてくる彼に怪訝な顔を向けた。
「俺の事、覚えてねぇの?」
ごめんなさい分からないです。
「……私達、初対面ですよね?」
「……恩知らずな女だな」
「???」
「俺が送って行くって言ったのに慌てて帰るから、これ忘れもの」
彼は上着のポケットからハンカチを出した。
これは私のハンカチだ。