偽りの婚約者
駅で待っている間に泣き張らして崩れてしまった顔を化粧落としのコットンで拭いてファンデを塗り直してメイクをし直した。
涙のあとはもう残ってはないけど目だけはまだ赤くてここだけは隠しようがないけど仕方ない。
東條さんの車に乗ると彼は私の顎を持ち上げて覗き込んだ。
「目が赤いな」
頬をサッと撫でてから手は離れた。
「何か食べてくか。その後、千夏の家まで送るよ」
「このままマンションに行きたい。
連れてって下さい」
「でも、夕飯は、まだなんだろう?俺もまだなんだ。
とりあえず、どこかに寄って行こう、な?」
食欲はあまりなかったけど、東條さんは食べたそうだったから頷いた。
軽く食事を済ませ、また車に乗る。
車は駐車場に停まったままだ。
「今日は遅いし、このまま家まで送ってくから帰れ」
何で……。
私は東條さんと少しでも長くいたいのに東條さんは違うの?
「まだ帰りたくないです。
さっきマンションに連れてって下さいっていったはずです」
「まだ、週末じゃないんだし。今日の千夏は疲れきっているようだし。無理させたくないんだ」
どうして、分かったって言ってくれないの……。