偽りの婚約者


「安西さん、おはよう」



ビクッ!!しゅ、主任!!
主任の声がして慌てて紗季さんの後ろに逃げた。


怪我をしてないか大丈夫だろうかと気にはなっていたけど主任との接触はできれば避けたくて主任のデスクの方は、あえて見ないようにしていたのに。
主任の方からいつもと変わりなく声をかけて来た。


同じ職場で避けるなんて無理な事だと始めから分かってはいたけど主任と会うのはもう少し後が良かった。


心の準備ができてない所に声をかけられて反射的に逃げてしまった私を紗季さんは不思議そうに見た。



「千夏、どうしたの?」



紗季さんお願いです。出来ればこのまま動かないでほしいです。
後は主任が諦めて通りすぎてくれれば……って、やっぱり無理でしたね。


「安西さんおはよう」


紗季さんの肩ごしから顔を出して再度声をかけられ、仕方なく挨拶を返した。



「……おはようございます」


「良くできました」


満足したように、ニコッとして行ってしまった。



昨日あんな事があったのにいつも通りに声をかけて来た主任が分からないし怖い。
でも怪我はしてないみたいで、その事だけは良かったとほっとした。




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