偽りの婚約者
「ねぇ昨日、主任と何かあったの?」
「……何にもないです」
「そう?ならいいけど」
紗季さんは仕事をやり始めて主任の話しはそれっきりだった。
仕事が終わって会社を出て駅に向かう途中。
後ろから声をかけられ振り向くと主任がいた。
もしかして、ずっと跡をつけられてた?
「昨日の話しの続きをしたいんだけど、歩きながらでいいから聞いてほしい」
何を言われても主任の気持ちに応えることは出来ない。
「昨日も言ったけど安西さんが好きなんだ」
「主任、私は無理です。
私にとって主任は頼りになる会社の先輩なんです。
それはこれからも変わりません」
「……安西さんには分からないんだな。人はさ、手に入らないと分かると余計に欲したくなるものなんだ」