偽りの婚約者
抵抗することを止めて目を閉じて全てが終わるのを待った。
ただ頬を流れる後悔の涙はどんどん溢れて来て止める事ができない。
突然、拘束は緩み体にのし掛かっていた重さが消えて軽くなり。
東條さんの体が離れたのを感じた。
もう私なんて抱きたくもない?
でも、目を開けて確かめる事ができない。
!?
突然、温かく柔らかいものが唇に触れてきた。
さっきとは違い気遣うように唇に何度も触れてきて。
はっとして目を開けると心配そうな東條さんの顔が見えた。
頬に流れる涙は東條さんの手のひらで拭われ涙が止まると私の腕をつかんで引っ張り起こされた。
東條さんはさっき別れるって言った。
だから、私はここから出て行かないと……。
フラフラと玄関に向かい歩き始めた。
「千夏っ」
靴を履いたところで後ろから東條さんに抱きしめられた。