偽りの婚約者
「東條、安西さんと二人になりたいんだけど」
「二人きりさせるわけ、ないじゃないですか」
「……お前がいると話しずらいんだよ」
「気にせずどうぞ」
はっきりと主任が千夏を好きだと分かった今、二人だけに、なんかさせられない。
「安西さん泣いていたのか。涙の跡が」
「触るなっ!!」
千夏の頬に手を延ばそうとした先輩があの日、居酒屋の入り口で千夏の髪に触れた先輩の姿と重なった。
二人は、驚いた顔で俺を見た。
はっと我に返り。
「……千夏には触れないで下さい」
「分かったからそんな怖い顔で見下ろすな。安西さんが怯えてるぞ」
先輩には俺が嫉妬心でいっぱいなのがお見通しのようだった。